「好きな作家さんは?」と聞かれれば、「山本文緒さん」と答える。
このブログでも何作か、文緒さんの作品を紹介してきた。
まだ若く活躍中だったので、これからも新作を読めるのだろうと、なんの疑いもなく思っていた。
なのに。
2021年10月13日永眠されていた……。
ファンなのに、このことを知ったのは一年以上が経った2022年末のこと。
茫然とし、そして即「無人島のふたり―120日以上生きなくちゃ日記―」を購入。一気に読了。
この本のこと、私にとっての文緒さんについて、つづります。本の内容について、ネタバレ注意です。
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私にとっての文緒さん
山本文緒さんのことは、コバルトシリーズ(集英社)のころから知っていた。
でも、私が本格的にファンになったのは「パイナップルの彼方」を読んだとき。
以来、新作が出るとチェックしてきた。
文緒さんの作品を読むとホッとして、「こんな自分でも大丈夫なんだ」という気持ちにさせられた。
2001年ころ、初めて自分のホームページを作ったとき、文緒さんの小説の紹介などを書いていたら、無料素材を使わせていただいたサイトの管理人さんが見てくださり、
「もしかして、山本文緒さんのファンですか?」と。
知り合いの方だったらしく、「伝えておきますね」と。
その後、なんと文緒さんご本人が、ホームページに訪ねて来て、ゲストブックに書き込みしてくださいました!!
あのときの興奮は、今でも忘れられません。。
余命、120日(ここよりネタバレ注意)
2021年4月、文緒さんは、膵臓(すいぞう)がんと診断される。
毎年、人間ドックも受けていたのに。
煙草とお酒は13年前にやめていたのに。
はじめは胃の調子が悪いのかと思っていた。
胃薬を飲んでも治らなかったものの、病院では「慢性胃炎」と診断される。
良くならないので大きい病院に行き検査をして、やっと、
膵臓がん、ステージ4
と診断を下される。
そして、余命4か月(120日)と告げられる。
死にたくない、なんでもするから助けてください、
とジタバタするというのとは違うけれど、何もかも達観したアルカイックスマイルなんて浮かべることはできない。
そんな簡単に割り切れるかボケ!と神様に言いたい気持ちがする。
文緒さんの状況と重ねる
この本は、文緒さんの2021年5月からの日記。
実は私自身、2020年6月に7カ月の入院を経て退院、2021年は引き続きリハビリ中だった。(今もリハビリ中)
冒頭に、使わなくなった部屋の片付けをするエピソードが出てきて、いきなり共感した。
私は入院したとき、「死ぬのかも」と思い、「部屋を片付けておけばよかった」と思った。
できることなら自分で全部後始末したかったのだが、できないものはできなくてつらい。
本当に。
自分の持ち物の片付けは自分でしたい。
自分でできないようなら「仕分けはせずに全処分で」と頼むつもりだった。
「今後」があると思っていたから、取っておいたものたち。
未来がないのなら、何の意味もない。早く処分しておけばよかったと思った。
退院して2年半が経つけれど、私はいまだにスッキリしない部屋の片付けを続けている。
また、私は今でも往診を受けているけど、文緒さんも往診を受けていたり、看護師さんとのやり取りがあったりというところにも共感。
誰かにしてもらうのではなく、自分のことを癒やすパワーは自分のなかにしかないと思う一方で、
人は他者の力を必要とすることもあり、それは他力本願とは違うんだとも思う。
治療を受けながらも、ただ言いなりになるのではなく、きちんと自分の身体と向き合って、旦那様ご協力のもと、薬を飲むタイミングを工夫したりするところも、さすが文緒さん、と思う。
大好きな文緒さんがそこにいた
本を読み進めながら、涙が出てきた。
夫が可哀想でつらい。なんとかしてあげたいけれど何もできない。
作品には少なからず、作家さんの思考の傾向・人間性が投影されているものだと思う。
ずっと「好きな作家さん」だったということは、実際にお会いしたことはないけれど、私はずっと山本文緒さんが好きだったのだ。
つづられている文章に、自分のことを冷静に客観的に見ているところ、でも時には感情の波に揺さぶられるところ、優しいところ、弱い優しさに流されないところ等々、自由で明るい文緒さんを感じられた。
人間同士の関係は男女だけでも、女同士だけでも男同士だけでもない。恋愛だけじゃないし、親友だけでもない。ただずっと離れずに自転公転をゆるーくゆるーく繰り返すことができるのが豊かなことかもしれないと、私はふんわり幸福に思っていた。
そう、そこには文緒さんがいた。
ずっと大好きで、苦しさや迷いのなかに埋もれそうになるたび、作品を通して何度も何度も手を差し伸べてくれていた、感謝してもしつくせない文緒さんが確かにいた。
私はこんな日記を書く意味があるんだろうか、とふと思う。こんな、余命4か月 でもう出来る治療もないという救いのないテキストを誰も読みたくないのではないないだろうか。
戸惑いながらも、文緒さんはメッセージを残してくれた。
生きているということ、生きていくということ、そして潔くスマートに次に進んでいくということ。
最後のページを読み終えたとき、静寂のなかで、一瞬、ときが止まった。
厳かな息苦しさ。
そして、大きく息を吸う。
尊敬と、感謝しかない。
一方的で勝手な思い込みだけど、救っていただいてきた人生を無駄にしてはいけないと思う。
文緒さん、ありがとうございます。
寿命尽きるまで精一杯、生き抜きます。
本のなかに出てきた「ばにらさま」も一気に読了。
思うようにならない人生にもがく、
そして、どうにかしなければと行動するけど、うまくいかない、
考えているうちに、自分が何を求めているのかすらわからなくなる。
人ってもろくて、強くて、愚かで、ずるくて、激しくて、時々純粋で、純粋すぎて、しょーもない。
これぞ、文緒さんワールド。満喫、満足。素晴らしい一冊。
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未婚の母と、登校拒否の高校生男子と、自称「うまく生きてる」あたしの物語。
ライター・校閲、メンタル心理カウンセラー、ムビラ弾き♪温泉行きたい
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