映画「重力ピエロ」を配信で観なおしてみた。

原作:伊坂幸太郎

映画 監督:森淳一、出演:加瀬亮、岡田将生、小日向文世、吉高由里子 ほか

2009年公開、2010年日本アカデミー賞・新人俳優賞:岡田将生。

観なおしてみた、というのは、以前DVDで観たことがあるから。

当時、原作も読んだような記憶があるけれど、レビューを書いた形跡が見つからない。

なので、配信で観なおそうと思いついた。あるシーンが印象に残っていたこともあったので。

映画を観て考えてしまったことを綴ります。

ネタバレ注意です!



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あらすじ

奥野泉水(おくの いずみ、加瀬亮)と春(はる、岡田将生)は、2つ違いの仲が良い兄弟。

父親(小日向文世)と母親(鈴木京香)のもと、温かい家庭で育ってきた。

しかし、春の実の父親は育ててくれた親ではなかった。

春は、母親が連続レイプ事件の被害者になったことで生まれた子どもだった。

そのことを知る周囲の人たちからは、心無い言葉をかけられることもあった。

母親は事故死を遂げ、泉水は大学院で遺伝子の研究をしている。

春は落書きを消す仕事をしながら、街で起きている連続放火事件と落書きの関係性に気付く。

そして、24年前に連続レイプ事件を起こした犯人は、出所して同じ街で暮らしていた・・・。

超ネタバレ!連続放火の犯人とは

春は泉水とともに、放火犯を突き止めようとする。

落書きに書かれている文字に、ヒントがあった。その文字が遺伝子記号に関係していたのだ。

謎解きをしながら、兄とともに犯人探しをする春。

しかし、その春こそ、放火の犯人だった。落書きも、春がしていたのだ。

一方、泉水は母親をレイプした犯人に会いに行き殺意を抱くが、実行しようとする直前に放火事件の真相を知り、春がいる場所へ駆けつける。

そこ(家族が元住んでいた家・犯行が行われた家)では、実の父親であるレイプ犯と春が向き合っていた。

ガラス窓をたたき割る泉水。

振り返って兄に気付いた春は、微笑んだように見えた。その表情に表れた感情は?
「やっぱり来てくれた」?「今からやるよ」?

火の意味を「浄化」だと春は言う。

そして自分がつけた燃えさかる炎の中で、実の父親を打ちのめした。何度も何度も。

信頼する兄・泉水の目の前で、春は実の父親への復讐を果たすのだった。

罪とは

ブログタイトルにもした”罪とは”は、この映画を観て考えてしまったこと。

罪とは、なんなのだろう、と。

兄弟の母親をレイプし、少しも反省していない犯人は、悪びれない態度で兄弟の前に現れ、気持ちを逆なでする。

レイプ犯は現代の価値観ではわかりやすい罪人として、考えてしまったのは、そのほかの罪。

泉水たち家族は、みな温かい。そして被害者であり、少しも悪くない。

なのに、その家族に心無い言葉をぶつける人たちって?

親が言っていることを信じてしまう年頃の子どもは、大目に見て、仕方ないのかもしれない。

体感では、「親の言っていることはおかしいのでは?」と思えるようになるのは小学校高学年くらいからのような。

それまでは、親の言うことは絶対みたいに信じてしまうところがあるように思う。

しかし、善悪の判断がつくはずの大人たちが、被害者に冷たい言葉をぶつけるのはどう? おかしくない?

どれだけ傷つくのか考えられない?

その態度は罪にならないの?

春の行動をどう思うか

春は、実の父親に復讐を果たす。

それは、法律的に考えれば「罪」。

しかし「春は罪人であり罰せられるべき」とは思えない気持ちになった。

現実的に「法的にダメなのはわかっているけど、復讐を果たしたい」という人がいたら、とめるだろう。

そんな奴のためにあなたが罪人になる必要はない、と。

いろいろなこと、わかっていても春は実行してしまった。泉水もやろうとしていた。

被害者である温かい家族が抱えてきた苦悩は、想像も及ばないほど大きなものだろう。

その想いを考えると、単純に「どんなにひどいことをされても、復讐するのは罪。復讐をしたことは裁かれるべき」だなんて言えない。

そして思う。罪とはなに?、と。

考えても、こたえは出ない。

「警察に行く」という春を泉水はとめる。
「悩んで出した結論を刑事や裁判官にとやかく言われる筋合いはない、おまえ以上にこのことを真剣に考えられる奴はいない」と。

24年前、妻(鈴木京香)が事件の被害者になり妊娠したことを知ったとき、夫(小日向文世)の頭の中には神様からのメッセージが聞こえたように思えたそうだ。

その言葉は「自分で考えろ!」。
とっさに考え、生まれてくる子どもは自分の子として育てる決意をする。

そう、きっと、「罪とは」という難しい問いのこたえも「自分の頭で考える」ことでしかわからないものなのだと思う。

印象的なシーン

以前にも観たことがあるこの作品、冒頭にも書いた通り印象的なシーンがあった。

終盤、嘘をつくときに自分と同じしぐさをする春に対して、父親は言う。

「おまえは俺に似て嘘が下手だな」

そのときの、春の表情。

自分は、育ててくれた優しい父親の本当の息子ではない、自分の実の父親は連続レイプ犯。

春はそんな葛藤をずっとずっとずっとしてきたはずだ。どんなに育ての父親に「俺たちは最強の家族」「おまえは俺の息子」と言われようとも。

それでも父親は言う。「(俺の息子の)おまえは、(父親の)俺に似て嘘が下手だな」。

春の表情には、負ってきた苦しみと、泣き出したいほどのうれしさと申し訳なさと、はにかみが見事に表現されていた。

 

泉水と春がまだ子どもだったころ、家族4人でサーカスのピエロを見ていたとき、父親は言った。

「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんて消してしまえる」

・・・深い。

被害者だから不幸でつらいはずなんていう思い込みも、当たり前とされる感情も、善悪の判断も、常識も、何が罪なのか罪でないのかも、くつがえせるチカラはあるのかもしれない。

ううん、きっと、あるのだろう。

理不尽で重苦しい事実を抱える家族が穏やかな日常の風景に包まれ、お互いを想いやる温かい心を持ち、優しい笑顔がこぼれるように。

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ライター・校閲、心理カウンセラー、ムビラ弾き♪
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