2003年に公開された映画。

監督:佐々部清 キャスト:寺尾聰、柴田恭兵、原田美枝子、吉岡秀隆、鶴田真由 他

当時、原作も読み、映画も観た記憶があり、ブログでレビューを書いていないかなと探したのですが見つからず。

記憶が曖昧ですが、ブログを始める以前に書いたかもしれません。

とにかく見つからなかったので、「もう一回観てみようかな」と思いました。森山直太朗の曲「声」が流れるところが印象的だった気がして。

この先、ネタバレ注意です!



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あらすじ

現役警部である梶(寺尾聰)が、アルツハイマーである妻(原田美枝子)を殺害したとして警察署に出頭してくる。

悪化していく妻とともに自分も死のうとしたが、できなかったというのだ。

しかし、殺害したのは3日前。

梶は妻殺しは認めたものの、空白の2日間のことについては口をつぐんだまま。つまり、半落ち(すべてを話していない)。

空白の2日間に、梶はなにをしていたのか? 妻を殺し、一人息子は数年前に白血病でなくしている梶は、誰を守っているのか?

守らなければならない存在

一人息子にはドナーが現れなかったため、生きることができなかった。

ドナー登録をしていた梶は、息子の死後、梶の骨髄が適合した少年が見つかり、その少年は救われた。

少年は成長し二十歳の青年になり、新聞に自分が骨髄移植により助けられたこと、今はラーメン屋で働いていることを投稿する。

たまたまその投稿を見つけた梶の妻は、投稿主は夫が骨髄移植をした青年だと確信し、
「会いに行きたい。自分が亡き後、夫の支えになるはず」
と思うが、症状が悪化していて見つけることができない。

妻殺害後、そのことを記した妻の日記を発見した梶は、青年に会いに行こうと思う。

空白の2日間は、そのための時間だった。

本当のことを告げれば、青年がマスコミに追われることになる。青年を守るため、梶は2日間のことを最後まで話さなかったのだ。

「誰のために生きてる?」

映画中に何回か、「誰のために生きてる?」というセリフが出てくる。

登場人物たちは「自分のため」と答えるが、同じことを聞かれた梶は答えない。

この「誰かのため」という言葉、個人的な意見を言えば、自分のためも誰かのためもない、と思っている。

自分のためは、誰かのためだし、誰かのためは、自分のためだ。

誰かのためだと思い行動することは、結局自分がそうしたいから行うもの。

結果的に相手のためになったのならうれしいこと。
だけど、自分がしたいからしただけのことだから、見返りを求めるのはおかしい。むしろ「させていただいてありがとう」だと思う。

梶は、「殺してくれ」と頼む妻を殺害した。

梶は妻のためを思って殺害したのだろうか?

「壊れていく妻を見ていられなかった」と言う。そして「妻を愛していました」と。

見ているのがつらかったから、愛する妻の願いであったから、殺害した。つまり、妻の願いであると同時に、梶の願いでもあった。

自分のために生きているのが、たまたま誰かの支えになれることもある。

(自分以外の)〇〇のために生きているという思いが、押しつけがましく重たいこともある。

誰のために生きているのかなんて、野暮な質問だ。誰かのためも自分のためもないのではないか。誰かのためは自分のため、自分のためは誰かのためだ。

許容量は人それぞれ

最愛の一人息子を失い、梶の妻はショックから立ち直れなかった。

同じような経験をしている人は多くいる。だから、梶の妻も立ち直れるはずだったと言えるだろうか。

喪失の痛みは、忘れるものでも乗り越えるものでもなく、抱えて生きていくもの。

時間の経過とともに、その痛みに慣れていくということ。痛みへの対応の仕方を見出すということ。

でも、痛みに耐えられない人もいるだろう。

ほかの多くの人が耐えられても、耐えられない人もいて、それは「弱い」で片付けられることではない。

アルツハイマーが悪化していく妻を見ていられなかったという梶に、同じような症状の父親の介護をしている裁判官の藤林(吉岡秀隆)は言う。
「介護保険を知っていますか? なぜ生かすことを考えなかったのですか?」

壮絶な介護生活を送る藤林は「自分は耐えている、あなたはなぜ耐えられなかったのか?」と責めているように思える。

耐えている藤林はすごいけれど、耐え続けるべきだとは思わないし、耐えられなかった梶がダメな人間だとも言えない。

それくらい、介護生活には重たいストレスがのしかかる。

頼まれたからって殺害することはないだろうとはいえ、人間は閉塞されたストレスのなかで有り得ない選択をしてしまうこともあるのだろうと想像できる。
自分も一緒に死のうとするほどの精神状態であったなら、この選択をしてしまったことも仕方なかったのかもしれない。

でも、罪は罪。「自分は殺人犯です」と梶はきっぱりと言う。

それでも「生きていく」ということ

ラストシーン、移送される途中、青年が立っているのが見えた。

「生きてください」
青年は梶に訴えた。

そのメッセージを、梶は口の動きで読み取る。

愛する妻も息子も失った。

自分は妻を殺した殺人犯。

なにを糧に、なにを生きがいに生きていく?

妻は、骨髄移植の成功を息子の生まれ変わりができたようだと、とても喜んでいた。

これからも生きていく夫のために、夫がひとりにならないようにと妻は青年を探した。自分が会うことはかなわなかったけれど、夫は青年に会えた。

息子の生まれ変わりのような青年にかけられた「生きてください」。

もしもこれから生きるのがつらくなっても、梶は青年からかけられたこの言葉を思い出すのではないだろうか。

そして、生きようと思うのではないだろうか。

生きることは、ときに苦しくてつらい。

それでも、生きて寿命を全うすることは、とても美しく尊い。

 

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