「裸にネルのシャツ」は、山本文緒さんの短編集「みんないってしまう」に収められている一編。
表題作「みんないってしまう」については、以前書いたのですが、今回は「裸にネルのシャツ」について書こうと思います! ネタばれ注意です!
あらすじ(超ネタバレ)
主人公は5年前に恋人と別れた。
喧嘩をして「出ていけ」と言ったら、同棲していた彼が自分の荷物を持って、本当に出ていってしまったのだ。
付き合い始めたころ、主人公は売れっ子のイラストレーターだった。
しかし別れたときには、ほとんど仕事がなくなっていた。
一人になった主人公は失意の中、親友に助けられ、自活できるように昼も夜も働き、お金を貯めた。
あらためてイラストの勉強をし、仕事を取れるようになり、再びイラストレーターとして生活できるようになった。
そして、別れた彼から連絡がきた。
成功している主人公は、明らかにうまくいっていない様子の彼と再会を果たした・・・。
羽振りの良いときは寄ってくる、頼られそうになると去っていく
5年前、イラストレーターの仕事がうまくいかなくなった主人公は、「このまま結婚して、イラストの仕事はアルバイト程度に続けていければいい」と考えていた。
ところが彼は稼げなくなった主人公を軽蔑し、半分ずつ払っていた家賃が払えなくなると「稼げなくなったのなら就職しろ」と言ってきた。
私達は愛し合っていたはずだ。ならば、どちらかが苦境の時は、どちらかが助けるのが道理ではないか。もし立場が逆ならば、私は喜んで彼の力になったと思う。
「苦しいときには助け合う」と思っている人もいる。しかし、依存されることを嫌う人もいる。
イラストレーターとして稼げなくなってくると、彼から冷たい目で見られるようになった。
人は何て敏感に、寄りかかられることを察知するのだろう。
彼が出ていったとき、親友は主人公より泣いた。
いい時は寄って来て、悪い時はこんなに簡単に去って行くなんてと。
状況は変わっていっても、主人公は彼のことが忘れられなかった。
・・・そして、再会した彼は、5年前と変わっていなかった。不自然なほどに。
悲しみと喪失と潔さと
主人公は、彼のことを大切に思っていたから、彼との関係を細心の注意を払って扱っていた。
失いたくなかったのに失ってしまい、なす術もなかった。
この作品には、主人公のあふれるほどの喪失感が丁寧に描かれている。
「いい時だけ寄って来て、悪くなると去って行く、依存されるのを嫌う」
自分勝手で冷たいように思えるが、案外、多くの人間の本音はこんなものなのかもとも思う。自分が求めている包容力や優しさを、相手に期待すると傷つくこともあるかもよ、と。
期待しなければ傷つかない、期待していなければ、意外にも相手が優しくしてくれたらうれしいと思える。だから、期待しないこと。
わかっているけど、無意識に期待してしまうことってあるよねと思う。そして自業自得なのかもしれないけど傷ついてしまうこともある。
主人公はラストで、自分の今までの気持ちを捨てる。勢いをつけて。潔く。
無意識に期待してしまって、それを抑えられなくて傷ついてしまうのなら。
もしかして大切なのは「期待しないこと」ではなくて、心の傷や喪失感、ぬぐえない悲しみすら切り替える「潔さ」なのかもしれない。
ライター、心理カウンセラー・タロット占い、ムビラ弾き♪自由に自分らしく輝けるお役に立てたら幸いです☆
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