山本文緒さんのファンになったのは、「パイナップルの彼方」を読んだとき。

面白くて一気に読了。

「こんなしょーもない自分でも生きていて大丈夫なんだ」
と励まされ、ほっとした気持ちになったのを覚えている。

その山本文緒さんの新刊が7年ぶりに出た。「自転しながら公転する」

以下、超ネタバレです! これから読む方はご注意ください!

 

「ベトナム」というキーワード

始まりは映画を観ているよう。

少しずつ情景が描写されてくる。

これから結婚する「私」。

舞台は、ベトナム。

どうやら「私」の結婚相手はベトナム人で国際結婚。

そこで語りは途切れ、与野都(よの・みやこ)が一人称の話につながる。

自然に、「私」は都なのかなと思いながら読み進めていく。

話が展開していく中で、「ベトナム」というキーワードが出てくる。

なるほど、ここにつながるのか~と思いきや、ベトナム人のセリフ↓

「ごめんなさい。ほんとにすみません。あの、五歳くらい上かなーって思ってたけど、そんな上だとちょっとまずい」

ひと回り年上の都は、言われてしまう。

急転直下。ベトナムのキーワードがつながらない。

・・・「私」は誰?

内側から、外側から、見る視点

山本文緒さん作品の魅力のひとつは、多角的な視点だ。

例えば都は、仕事や恋や親の介護にと悩む普通の女性に思えるけれど、違う視点から見ると、「ストレスが溜まったからと言っては洋服やアクセサリーや役にも立たない雑貨を買いあさり、家を散らかす」人。

平凡だと思える都は、視点を変えるととてもエキセントリックな人物なのだ。

 

こんなエピソードが出てくる。

恋人の貫一が、都にネックレスのプレゼントをした。

調べてみると値段は十万円。高い買い物をしている経済状態ではないはずだと思った都は、カーッと頭に血が上る。

「十万円あったらスーツだって鞄だってネクタイだって、あんな安っぽいのじゃなくてもう少しましなものを買えたはずだよ!」

貫一視点の語りがないので想像ですが、貫一としては、バイト代が入ったから都が喜んでくれると思ってプレゼントを買ったのに。

もし私が貫一の立場だったら、プレゼントをして喜んでくれるどころかこんなふうに責められたら、「2度とこの人にプレゼントはしない」と思うだろうなどと想像してしまう。

そして、都の女友達の一人は貫一のことを「中卒回転寿司野郎」(貫一は中卒で回転寿司店で働いていた)と切り捨て、

別の女友達は、「学歴や収入では人を判断できない」と言い、貫一の持ち物を「駄目」だと指摘した都の方こそ料簡が狭いと意見する。

「中卒回転寿司野郎」と言われている貫一は、また別の視点から見ると「愉快で鷹揚で、精神的に安定していていつも機嫌がよく、でも厳しいところもある」人。

同じ人でも、立場や状況によって人物像が変わってくる。

どれが本当でどれが嘘とかではなくて、どれも本当で、そうやって人と人は関わり合い支え合って生きているのだ。

視点を変えれば白いものも黒くなるから、決めつけは良くないし、いろいろな方面から物事を見ることが大切なのだとあらためて教えられたような気持ちになった。

「娘」に伝える教訓

ラストで都が言う。

「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」

これが都が経験を通して学んだ教訓のようなものなのかなって思った。

仕事や恋愛や親の介護問題を通して学んだこと。

でも、幸せってなんだろうって思う。不幸とはなに?

それと、これは読んだ人にしかわからない話になるけれど、女のカンは鋭いから、ニャン君と都はなにかあったのかもしれないと思う。物語には描かれていないところで。違うかな。うーん、このモヤモヤ感もリアル!

自転しながら公転する

「地球は秒速465メートルで自転して、その勢いのまま秒速30キロで公転してる」

酔った貫一が都に言う。

「おれたちはすごいスピードで回りながらどっか宇宙の果てに向かってるんだよ」

そうかもしれない。コントロールしているようでいて、予測できない勢いでどこかへ向かっていく。

その中で必死に悩みながらも生きているんだ。都も貫一もみんなも。

全然カッコよくなんて生きられない。

でも、それでいいのではないか。

精一杯、もがきながら生きているのだから。そして精一杯以上には、頑張れないのだから。

だから大丈夫、そういうことだから、って言ってもらえている気持ちになった。だから、大丈夫。

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