「NO DIRECTION HOME」(監督:マーティン・スコセッシ)を観た。

これはボブ・ディランのドキュメンタリー映画。

タイトルの「NO DIRECTION HOME」は、「Like A Rolling Stone」の歌詞からとったという。

それほど期待して観た訳ではなく(失礼;)、一気に観るのはしんどそうだから、少しずつ観ようと思っていたのに、観始めたらおもしろくて3時間以上の映画を一晩で観終えてしまった。

演奏やインタビューや野次に応戦するボブ・ディランを観て、今までそれほど知らなかっただけに衝撃的だった。

そして監督のマーティン・スコセッシのインタビューを読んで、またズキュ~ンときた。

「インタビューの中で彼(ボブ・ディラン)が『ずっと家にたどりつこうとしてきただけだ』と言ったのを聞いて、胸を打たれた。つまり、彼は家には帰りつかないだろうし、我々がたどりつくのは、別の場所なんだということにね。家に帰ろうとする者は誰でもそうだけど、家につきたいと思っても、それは無理なんだ。とにかく絶対無理なんだけど、頑張ってやってみようとする。つまり、家というのは、そうやっているうちにできてくるもので、そのプロセスの中にこそあるものなんだ。それがおもしろいと思った。それは人生全体の原動力に十分なりえると思う。死ぬときになってやっと、家についたと言えるんだから」

たぶん、
「自分の場所はここじゃない。居心地のいい家は、どこか他にあるはずだ」
と感じたことがある人は、少なくないのかもしれない。

でも、居心地のいい家なんてどこにもなくて、それは居心地の悪さを感じながらも生きていくプロセスの中にできてくるものでしかない。それでも人は自分の家を求めて生き続ける。

家にたどり着く時――、実はそれは、懸命に生き抜いた人生を終えた時なのだ。

ボブ・ディランがバンドをバッグにエレキ・ギターをかき鳴らしたとき、彼のフォークソングを愛するファンたちからブーイングが巻き起こる。

「気に入らないなら来なければいいのに、なんでこの人たちはチケットを買って、演奏を聞きに来ているんだろう?」
と思っていたら、ボブ・ディランもステージを終えた後、
「何でチケットはすぐ売り切れたんだ?」
と言っていたので、笑ってしまった。

でもあの様子を観ていると、「よく無事だったなあ」と思わずにはいられない。

批判されてもボブ・ディランは、
「歌を聞き手に合わせるつもりはない。誰もが満足する歌などない」
と強気で、自分が信じているスタイルを崩さない。

複雑な人だというコメントが出てきましたが、”複雑”という表現はちょっと違うような気がした。

気むずかしそうな人だとは思いましたが、なんていうか、こういう例えはどうかとも思いますが(”にわか”なのに、すみません、と先に謝っておく)、……ハリネズミみたいだと思いました。

敵から身を守るために、針で身を包んでいる時のハリネズミ。

無遠慮に近付いてくる人には、硬い針で威嚇して撃退、みたいな。

映画中で使われたボブ・ディランのインタビューは、最初は10時間分もあったという。

「芸術家は目的に到達したと思ってはいけない。いつもどこかに向かう過程にあると思うべきだ。そう思っているかぎり、大丈夫だ」

うーむ、深い。

ツアーでいろいろな国を飛び回り、ファンにもみくちゃにされ、インタビュー攻撃にあい、ブーイングにさらされ、ボブ・ディランは疲れをみせ始めます。

「今晩はやれそうにない。どうしても頑張れそうにないんだ」
「家に帰りたい。ただ家に帰りたい」

1966年7月29日のバイク事故をきっかけに、その後8年間、ボブ・ディランはステージから姿を消します。

(ブライアンもストーンズ脱退後、これくらいスタジオワークだけに携わるような生活を送れれば、元気を取り戻せたかもしれない、なんて思ってみたり)

映画はここまでで終わりますが、この映画を観て、もっとボブ・ディランのことを知りたくなりました。

さて、以前ボブ・ディランの「mr.tambourine man」を題材にしたブログを書きましたが(妄想が過ぎたので、敢えてリンクしない)、この曲、The Byrdsバージョンの方が評価が高いようなのですが、個人的にはボブ・ディランの方が好きです。

この曲は歌詞を見る限り、結構切羽詰った心境のものだと思うのです。

声高に助けを求める気力もなく、疲れ果てていて、動くこともできず、ひとりぼっちで、眠ってしまえば楽なのに眠れもしなくて、mr.tambourine manに救いを求めている。

”ぼくをここから救い出してくれたら何でもするから”っていうような切実さを感じるのです。

渇ききった倦怠感を歌っているような。

なので、シンプルなボブ・ディランのバージョンの方が、私としては、しっくりきます。……まあ、好みの問題なのでしょうが。




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