小説「ゆれる」を読んだ。(西川美和著)

ゆれる <新装版> (文春文庫)

ゆれる <新装版> (文春文庫)

西川 美和
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サラッと読んだだけでは良く理解できず、
(というのは、肝心の兄の語りが少ないため、はっきりと吊り橋の出来事の際の兄の行動がわからないので、その他の人たちの語りから推測していくしかない)
読解力が低いゆえか、まるで国語のテストを受けるかのような感覚で、物語の意味、それぞれの心理(の変化)を組み立てていった。

そこで、私が先日書いた↓↓が間違った解釈だったと気付いた;(スミマセン)

たぶん、たぶん、今回読み解いたものの方が、真実(に近い)と思う。

** 以下、ネタバレ注意 **


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あらすじ

田舎を飛び出し、チャランポランな生活を送りながら、それなりに著名なカメラマンである弟(猛)。

田舎に残り、家業のガソリンスタンドを継ぎ、実直な日々を送る兄(稔)。

母の一周忌で兄弟は再会する。

智恵子(吊り橋から落ちた女性)は、弟と昔つきあっていて、今でも好意を持っている。

兄は智恵子に好意を持っているが、告白できずにいる。そして弟と智恵子の仲にも気付いている。

弟も兄の智恵子に対する気持ちに気付いている。

3人で吊り橋のある渓谷に遊びに行き、吊り橋を一人で渡っていってしまった弟を智恵子は追いかけていく。

吊り橋が苦手な兄も、必死に智恵子を追いかける。

智恵子は自分にしがみついてくる兄に嫌悪を感じる。

そして「触らないでよ!」と叫んでしまう。

兄は意外な言葉をぶつけられてショックを受けると同時に、カッとして、智恵子を突き飛ばす。

尻餅をつく智恵子。智恵子は兄の中の激しい怒りに気付いた。

兄は我に返って智恵子を助け起そうとするが、智恵子はその手をとろうとしない。

そして智恵子はバランスを崩す。兄が差し出した手を咄嗟に智恵子はつかむが、そのまま滑り落ちていってしまう。

その様子を見ていた弟は、智恵子と兄の間の心理を知っていたためか、兄が智恵子を突き飛ばしたのを突き落とした

というふうに思い込んで、記憶する。
(人は見た光景を、自分の都合のいいように解釈してしまうものなのかもしれない。それくらい記憶というのは曖昧なものだということ)

ゆれるつり橋の上で、見た光景の解釈もゆれる、記憶もゆれる

吊り橋の上で呆然とする兄のもとに駆けつける弟。

兄は弟が自分のことを少しも信じていないのを察する。兄が智恵子を突き落としたと思っているのに、保身のために兄をかばおうとしているのだと。

兄が突き落としたのだと思い込んでいる弟は、事故だったということにするため、警察に言うことを兄に助言する。

弟に言われたとおりに話す兄。

一旦は事故ということでおさまったが、この件を境に、兄は壊れる。今まで抑えていた感情があふれ出たのだ。

別件で警察の事情聴取を受けた兄は、「智恵子を突き落とした」と嘘の自白をし、逮捕される。

**引用**

「仕事は単調、女にはモテない、家に帰れば炊事洗濯に親父の講釈――ねえ、何で? 何でお前と俺はこんなに違うの?」
「あのスタンドで一生生きていくのも、檻の中で生きていくのも大差ないな」

単調な生活を送っている兄は、自由奔放に生きる弟を誇りに思い、またコンプレックスも感じている。

弟は、自分とは反対に逃げ出さず実直な生活を送っている兄のことを尊敬しながらも、もどかしさを感じている。

弟は今まで知らなかった兄の一面を見てしまう。智恵子のことで、自分にかまをかけたり出来る兄。平気で嘘の証言が出来る兄。

「事実を言えよ」と弟は兄に言う。

**引用**

僕に問いかけながら、猛は怯えていた。
おかしいよ。あの猛が、僕にだよ。
まじまじと、僕の顔を凝視して、まるで僕の発する一言に、人生が懸かっているかのような神妙さ。
嬉しかった。興奮した。そして失望もしたよ。ずっと太陽のように頭の上で光を灯していた僕の猛はいなくなった。とうとう全てを失った。

弟は本当のことを証言をしようと決意する。それがたとえ兄を売ることになろうと。自分を殺人犯の弟にしてしまうことになろうと。

「真実と思い込んでいること」を証言する弟。

兄は証言する弟を神々しいとさえ思う。

弟の証言により、無罪になりかけていた兄は一転して、有罪になる。

7年の歳月が過ぎる。

弟には以前のような勢いはなく、写真を撮ることをやめようと思っている。

兄を売ってしまった心の傷は大きかった。

兄、出所の日。

弟は迎えにはいかないつもりでいる。

ふと幼い頃家族と一緒に(吊り橋のある)渓谷に遊びにいったときのフィルムがでてきて、それをまわし始める。

映像を見ながら、兄ばかりが愛されて、自分は父親から愛されていないと思っていたが、それは間違いだったことに気付く。

岩をよじ登る弟に、上から手を差し出す兄。手を取り合う2人。そこには兄弟の愛情があった。

真実は、ゆれる想いの中でゆがめられていた

それを見て、弟はあの時見た「真実の光景」を思い出す。

兄が智恵子を突き飛ばした。

尻餅をつく智恵子。

兄は助け起そうと近づいていく。

智恵子がバランスを崩す。

助けようと手を差し伸べる兄。智恵子は咄嗟にその腕をつかむが、結局そのまま滑り落ちていってしまう。

兄が突き落としたのではなかった。兄は助けようとしたのだ。

弟は自分の思い込みで真実を間違えて記憶していたのだ。愕然とする弟。

**引用**

全てが頼りなく、はかなく流れる中でただ一つ、危うくも確かにかかっていたか細い架け橋の板を踏み外してしまったのは、俺だったのだ。
誰も許しはしないだろう。
けれど、もし、誤ったとしても、失ったとしても、もう一度だけ手を伸ばし、声を上げるより他に、生きて自分に出来ることを、俺は今、見つけられない。

弟は出所する兄のもとへと向かう。

道の向こう側に兄の姿を見つける。

叫んでも届かない。必死に兄の姿を追い、叫び続ける。

「兄ちゃん、うちに帰ろうよ!」

兄がやっと弟に気付いた。

弟は兄を、兄は弟を、取り戻すことが出来るのだろうか……。

*************
兄は智恵子を助けようとした時に、腕に傷を負ったのですが、
その傷に警察は何故気付かなかったのかとか、智恵子を司法解剖をした際に、その痕跡が発見されなかったのだろうか、という疑問は残る。

また、いくら一緒にいたのに智恵子を助けることが出来なかったという罪悪感があったにしろ、なにも有罪を受け入れることはないだろう、とも思う。

しかし、兄はこういう人なのだ、今までの生活にはうんざりしていたのだ、と言われてしまえば、納得できなくも無い。

映画を観ただけではわからず、小説も必死に読んで、意味を探ろうとした作品は初めてだ。

しかも、今回の解釈も、もしかして間違っているかも……、とちょっと不安。
間違いがあったら指摘してください……;

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